体を意識するとストレスに強くなる
マサチューセッツ工科大学という名門大学がアメリカにあります。そこにはストレスクリニックといってストレスへの対処と軽減を専門に行っている病院があるそうです。8週間のプログラムを行うのですが、そこで行うのは、ボディースキャンと呼ばれる体のパーツを細かく分けて意識を順番に移していくワーク、ヨガ/呼吸法、瞑想などを行います。中でもボディースキャンは4週間という期間をとり、1回約75分のプログラムを行うそうです。
「なんだ、そんなことでストレスが軽くなるはずがない!!」と思う方もいるかもしれません。しかし、このプログラムを経験後のアンケートでは、60%以上の方がストレスが以前より軽くなった、生きやすくなったと回答するそうです。このプログラムに参加される方は、末期の癌患者さんであったり、長期間リウマチで苦しまれている方であったり、何かの神経症を患い、生活に困難が生じていらっしゃる方ですから、一般の方のストレスと比べるとかなり強度のストレスを感じていらっしゃる方たちです。
ボディーワークを行うことでストレスが大きく軽減されるということは事実です。それはどうしてでしょうか?
使った感覚はドンドン強くなる
カウンセリングルームに来られるうつ病のクライアントさんに、「目を閉じて今右の足先がどこにあるか意識できますか?」と聞くと、「良くわからない」と答える方がとても多くいらっしゃいます。また意識できてもとても時間の方も少なくありません。「目を閉じて、両手をまっすぐ上に上げて」というと左右の腕が平行にならず、どちらか一方の手がかなり極端に横に開く方も多くいらっしゃいます。
辛く苦しい経験をすると人の意識はそこから生まれる辛さの感覚、苦しさの感覚に向いていきます。胸の悼み、息がつまる感覚、胸が焦げる感覚・・人それぞれ苦しさや辛さの感じ方は異なりますが、その体の感覚に意識がむいていきます。
意識を向けるということは、その感覚を感じ取る器官をたくさん使うということです。
脳細胞の記憶の結びつき(脳細胞の樹状突起を電気が流れることで人は物を考えることができます)、そこから神経を通って体の各器官に指令をだし、その器官が苦しみや辛さの感覚を産み出し脳へとフィードバックしてきます。つまり、この一連の身体の器官を苦しさや辛さを沢山感じた方は毎日、毎日トレーニングし続けていることになります。ですから苦しいこと辛いことを沢山経験していらっしゃる方は、その感覚がとても強くなり感じやすくなっていきます。
同じように考えれば、その感覚を弱くするためには体の他のパーツ(手や脚、背中・・・)に意識を分散させたり、集中させ、その感覚を感じる時間と強度を減らすことが有効なのです。
ボディースキャンを行ってストレスが緩和されるのは、他のパーツを感じることで辛さや苦しさを感じる器官を使う時間をできるだけ減らし、そのネットワークの結びつきを弱くすることで辛さや苦しさの感覚を弱めることができるからです。普段使わない体のパーツに意識を自由にむけ、感じることができるという練習をすることで、ストレスに対抗することができるのです。
実際、この方法は恐怖症の克服にも用いられることがあります。恐怖症の治療の方法の1つにフラッディングというものがあります。フラッディングは恐怖症をかかえている人を恐怖の対象(高さ、尖端など)の強度なものに一定時間曝す(さらす)というものです。この方法は「慣れる」ということである一定の効果を示す場合もありますが、フラッディングの実施者にとの信頼関係が薄かったり、恐怖の許容範囲を超えてしまった場合などは返って恐怖心を強めてしまう場合もあるため、恐怖の許容量をこえないようにフラッディングの最中に、「脚、脚、脚、脚」「手、手、手、手」と言葉にしながらそのパーツをタッピングする(叩く)ことで、恐怖の感覚を他の部分に分散させることで恐怖感を弱めフラッディングを成功させる手助けとしています。
普段意識を向けていない体の各パーツに意識を向け、感覚を研ぎ澄ませていくことで、感情のコントロール能力やストレス耐性が強くなっていくのです。
ボディースキャンとまで行かなくても、立ち上がる時、座る時、階段を上る時、「今、体のどの部分を、どんなふうに使っているのか」を意識して毎日を暮してみてください。
穏やかで幸せな毎日を過ごす役に立つでしょう。
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